中村享一

Talkin’ About Nagasaki ―ゲスト:中村 享一さん[建築物が生み出す町の結節点]

私たちNagasaki365は「ローカルについて思考・議論し、再定義し、再構築することが、その集合体である日本そして世界の豊かな未来を創る。」と考えています。私たちはローカルであるここ長崎で今、何を見て、何を考えるべきなのでしょうか?

ここに一つのヒントを見つけるために、Nagasaki365は長崎の各分野におけるトップランナーがどのように長崎を見ているのかをインタビューでお届けする “Talkin’ About Nagasaki”を始めることにしました。

第2回目のゲストは一宇一級建築士事務所代表、建築家・芸術工学博士の中村享一さんです。

中村享一さんプロフィール

1951年日本近代建築発祥の地、長崎市飽の浦生まれ。一宇一級建築士事務所代表。建築家・芸術工学博士。シェアハウス一宇邨長。長崎都市遺産研究会事務局長。日本建築学会・Docomomo Japan・建築士会長崎支部・長崎近代化遺産研究会・産業考古学会・住宅遺産トラスト会員。
白石建設、都市企画設計コンサルタントを経て’82年福岡で中村建築設計室設立。’97年JIA(建築家協会)九州建築塾を創設し実行委員長を務める。自邸新築を機に環境問題に取組み、’00年建築再生デザイン会議副議長。’09年九州大学大学院環境・遺産デザインコース入学。’10年還暦を機に組織変更し、翌年長崎帰郷。’13年長崎都市遺産研究会を設立し、長崎市公会堂保存運動に勤しむ。’16年軍艦島研究で芸術工学博士号取得。現在、建築保存再生を通し、歴史や文化、技術の継承に取組んでいる。
Facebook:https://www.facebook.com/kyoichi.nakamura.5
一宇一級建築士事務所:http://www.ichiu.info

■取材場所:Akunoura HUIS

■インタビュアー:久保圭樹
株式会社ネットビジネスエージェント 代表取締役

Facebook:https://www.facebook.com/keiju.kubo

【目次】

01. 建築物が生み出す町の結節点

福砂屋 松が枝店の事例

久保:中村さん、今日はよろしくお願いいたします。まず、中村さんの建築のお仕事についてお聞きしたいんですが、長く福砂屋さんをやられてますよね。多良見店や本店の外壁改修、長崎空港店やショッピングモールの中にある店舗なども。その中でも非常にユニークなのが松が枝店だと思います。中村さんはプロジェクトマネジャーとして出店地の選定などもアドバイスしたとお聞きしたことがありますが、ここは場所としては少し外れた所にありますね。

中村:はい。松が枝店が建てられた場所は人が多く集まっていた場所から少し離れたところですが、実は結節点なんですよ。

久保:結節点に作ることによって…。

中村:繋がるんですよ。東山手ゾーンと南山手ゾーンを繋ぐ新しい人の流れを生み出します。遠くからでも福砂屋の前で、人がたむろしているのが見えるようになると、吸い寄せられて、結節点となります。水辺の森公園や美術館、出島ワーフなどナガサキ・アーバン・ルネッサンス構想エリアも回遊動線に入れながら、人の流れを予測して、どういう佇まいの建物を造ると効果的かを思考しながらプロジェクトに取り込みました。

久保:南山手と東山手のところを、結ぼうとしたんですね。

中村:そうです。その場所は十坪程の敷地ですが、そういう可能性を持っていました。南山手の外れでもなく、東山手の外れでもない。全体の中心になっていくという感じがしました。

福砂屋 松が枝店。結節点となり人の往来を生み出す。

久保:ビジネスとしても可能性があるし、この地域の町づくりを考えた場合にも、自分たちがやる意味があると。

中村:そうゆうことです。

久保:そのために、この場所で、こういうデザインの建物にした方がいいと提案して、一緒に考えてってことなんですね。

中村:老舗企業は、地域に対しての配慮とともに、周辺のことをしっかりと考えているんですね。今の福砂屋の本店だって、あの場所は、果たしてあんなに便が良い所だったかというと、そうでもなかったように思います。前の広場だって、最初から広いわけじゃなかったようです。昔は足袋屋さんが前にあって、そんなに広くなかったようですよ。でも、あの場所をある意味では育てて、そして中心になっていきました。松が枝店の周辺だって、同じように育てて、少しずつ変わっていくと考えました。

久保:いい建築って、建てるだけではないんですね。

中村:いい建築は碁石の玉みたいな要素があるかもしれないですね。

久保:それはまちの中に、建物という碁石を一手打つことで、環境や状況が変わるということですか。

中村:変わります、変わります。こんな所にこんな建築ができたということで、人の流れが変わることは、よくあります。だれがどういう思惑があって、そこに一手を打つかが大事ですね。

見識と合意が、都市の未来を創る。

中村:そう考えると、その一手を見識がある人が打つか、そうでない人が打つか、っていうのが重要になります。例えばですね、家に新しい椅子を買おうというときに、子ども達がこの椅子がカッコイイと言ったものを買えば良いのか、というとそういう訳ではないんですね。いい家のしつらえができるのかと言うと、おそらくそれはノー。だから、しっかりと教育を受けた見識がある人たちが、よく見て、考えて、選んだ上で、子どもたちに合意を取るというようでないといけないと思うのですが、都市づくりにおいても同様なことが言えると思います。しかし、今の長崎はそうなってないんですよね。

子ども達から上がってくるものも聞かず、でも教育を受けた見識のある人間もいないがままに、どこで決まっているんだろうっていうような不安定な状態が今の長崎って感じがしますね。

見ていて思うのは、都市整備や建築の進むべき方向の判断基準が、「これだったら補助金がもらえます」という国の制度ありきになっているところです。長崎の悪いところですね。

久保:なるほど。

中村:国は地方都市整備のために補助金を作りますが、この制度というのは、画一的ですよね。平地も、長崎のような坂の多いところも同じ制度の中で検討しないといけなくなっています。だから、長崎は他の地域と比べて地政学上の問題をしっかりと考えた上で、その制度を運用できるスキルを持たないと、都市としての機能が衰退するという気がしますね。

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ライター

久保 圭樹

ネットビジネスエージェント

久保 圭樹

Nagasaki365の企画・設計、Webデザイン、写真撮影などを担当。普段は企業のWebサイトの企画・設計、Web広告運用やWebマーケティングのコンサルティングなどを仕事にしています。

https://nb-a.jp