中村享一

Talkin’ About Nagasaki ―ゲスト:中村 享一さん[建築物が生み出す町の結節点]

「02.軍艦島を知ると長崎が見えてくる」に続く、軍艦島についての話。人口密度世界一の島がどのようにしてうまくコミュニティを機能させていたのかなど、中村さんの研究の一端が垣間見えるインタビューをお届けします。

【目次】

03. 軍艦島から考える都市づくり

軍艦島の都市づくり〜生産力を安定させるために

久保:例えば軍艦島が生まれて、繁栄し、衰退していきますよね。その上で、長崎という都市を考えた場合も当然繁栄があって衰退への曲線を描くわけですが、その衰退の中からいかに次の新しい芽を育てていくかという視点が、都市を持続させるにはあると思うのですが、軍艦島を見ていてそういう点で気づくことがありますか?

中村:ありますよ。端島(軍艦島)は、コミュニティが非常に良くできていますね。暮らしやすかったんですよ。端島を離れて自分たちできちんと生きていけるだろうか、って住民たちに思わせるぐらいの、良いコミュニティができあがっていましたね。

久保:人口密度が世界一だったと言われていて、それに過酷な労働ですよね。ともすれば負のイメージで見てしまいそうなものですが、そうではなかった、と。どうやってそのコミュニティは形成されていたのでしょうか?

中村:採炭業を維持するために酒と博打と女を掴ませて、縛り付けていた時代もありました。そこをどうやって解放させて、いい方向に向かったのかというのは、三菱の労使と教育というものが関係しているわけですね。それは、重要な都市づくりのサンプルのひとつとして見ることができます。

例えば、軍艦島では、激しい災害があって、労働環境も厳しいし、伝染病もあります。狭い島内は窮屈な生活で、荒れる人間たちがいます。そんな状況の中で安定した生産管理をするために、1910年代にお坊さんを連れてきているわけです。

その経緯について話すと、三菱の中でも端島坑を運営していた高島炭鉱は利益も上げていたので、会社ではすごい権限を持っていました。明治後半頃は、三菱の財源のドル箱は高島炭鉱を有する炭鉱業で、三菱の利益の半分くらいあるわけです。2、3年の利益で、丸の内の10万坪が買えた。それくらい儲かっているから、1日でも営業を停止すると経営的にはとても影響があります。

労使は常に重要な課題でしたが、その何十年か前にさかのぼると、高島炭鉱では「納屋制度」という間接雇用制度が廃止されていました。それは、親方が技術炭鉱夫を集めてきて、三菱で働かせ、親方はここから、みかじめ料を取っていたという制度ですね。

久保:現在でいう派遣制度ですね。

中村:その派遣制度によって炭鉱業は成り立っていましたが、ピンハネだとか、色んなおかしな制度もあって、安定した派遣にはなっていませんでした。労働者から納屋制度廃止の要求が三菱に出ます。それが明治30年頃です。日本に機械技術と近代経営が入ってきましたが、それまでの日本の風習、習慣、制度と馴染まないようになっていて、矛盾が表面化してきました。三菱は労働者の間接雇用制度をやめて、直接雇用をしないといけなくなりました。

現代でも企業がきちんと福利厚生まで含めてやっていくのは難しいわけですが、当時三菱はそれを実行しなくてはいけない状態に陥ったわけです。そのために、生活環境を整えます。酒と女と博打と給金だけでは、不満要因を解消できないというのが解っていました。

そんな中で、欧米を視察した高島炭坑長の日下部さんという方が、「欧米においては宗教施設、特に教会がコミュニティや自治、そして教育において大事な位置付けとなっているが、日本はそういったことを外において、技術や経営ばかりを取り入れたことに気づいた」というような記録があります。そして、社長の岩崎久弥さんに直訴し、お坊さんの派遣を依頼することになるわけです。

そのお坊さんがやられたのは、善導だと書いてありますが、寺や学校みたいなものをつくって宗教や教育を広めました。そうやって、安定した生活を送れるような環境をつくったわけです。つまり、労働者を治めて会社の生産力を安定させるためには、宗教など生産と直接関係ないことも、環境整備しながら町をつくらないといけないということまで、三菱は気付いて行っていたということですよね。

こういう過去の歴史を、軍艦島をサンプルにして見ていくと、資本主義経済が近代化のために不要だとして捨てた間接雇用制を現代では20~30年くらい前からまた復活させているんですよね。100年も前の近代化のなかで、廃止する必要があったものをまた復活させています。おかしなことですよね。町や組織、制度を作るには、本来、歴史から学ばなきゃいけないことがありますね。

2011年軍艦島への上陸許可を受け、島内の建物の実測と記録を行った。

久保:それを知るのに、軍艦島は非常に面白いサンプルだ、と…。

中村:はい、そうです。興味深いと思います。例えば軍艦島に1916年に建設された最初の鉄筋コンクリート造である30号棟がなぜ生まれたのかというところに注目しました。調べていくと、西洋の近代産業化を取り入れる過程で、労使の問題と経営の問題がしのぎあって、さらに厳しい端島の自然災害が加わったために、世界的にも先駆的な建築事例の30号棟が生まれたということがだんだん分かってきました。

「台風で壊れたものを作り変えるのに、もう木造はダメだから鉄筋コンクリート造にしなさい」というのは解り易いですよね。でも、「なぜ4階建てで復旧予算がついたのに7階建てが建ったのか?」ということが私には疑問です。これを深く読み解いていくと、「狭い土地に空地を大きく広げるためだ」ということが見えてきました。高層化させた居住空間を作り、生まれた空地には広場を作っていきます。そこには後に、商店、料理屋、床屋、映画館、寺などができていって、女性や子どもも暮らしやすくなっていきます。それが都市づくりでした。でも、経営とか経済の合理性、人の気持ちを外したところでの合理性を考えると広場なんかいりません。例えば、今の長崎市はそういう方向に向かっているように感じる時が多々あります。人口流出による人口の減少もそのような背景があるように思います。そのような視点での対策は歴史から学べることだと思います。

軍艦島研究の成果を、軍艦島デジタルミュージアムの一角で展示している。

長崎市の都市づくりに対する疑問

久保:三菱が軍艦島という都市づくりを経済合理の外にも目を向けながら進めていった。長崎市をそれに照らし合わせてみると、今は逆の状態にあるということですか?特に長崎市のどういうところが気になりますか?

中村:例えば、学校や地域の統廃合はもっと、きちんと議論しなきゃいけないですよね。この問題は大きいです。

久保:例えば学校の場合、若い人たちは地域の小学校などが廃校になるとそこに住む意味がなくなりますよね。

中村:子供が育てられません。

久保:子供が育てられなくなりますよね。そうすると、子育て世代はより子供を育てやすい場所へ移動しようとします。結果として、そのコミュニティからは30代以下が消えることになり、地域の担い手がいなくなり、衰退に向かいますよね。

中村:まちは子育て世代がいなくなってくると、次第に衰退するでしょうね。

少し視点は変わりますが、地域の統廃合でいうと、このあたりは昔、淵村といって、明治後期に長崎市として統廃合しましたが、統廃合したくないという運動が起こっています。なぜなら、このあたりは税収で裕福だったからです。三菱があるから当然そうですよね。企業城下町で、お金は降りてくるというふうな場所でした。結局、国と長崎市の意向によって統廃合したわけですが、対岸地区として位置付けられ、車社会が進む中で道路等の基本整備が後回しにされたように思います。これは、地域の住宅整備が進まなかった大きな要因となりました。もちろん斜面地を多く抱える地域であることが、影響していると思います。学校の統廃合や市町村の統廃合は地域間の差や個性を考えるべきだと思いますが、昔からの「まちなか」を中心にものごとが動きすぎているように思います。地勢や地形にあった都市政策に関する手の打ち方が良くないですね。

久保:なるほど。

中村:新しく建てる長崎市役所についてもそうです。長崎市は新大工から浜町、そして大浦のエリアを「まちなか軸」といって、そちら側に市役所を移転し、建設する計画にしています。災害対策上の観点から高台から低地へ移転することの是非は別の論点ですが、市役所というのは市全体のサービスをするわけですし、位置を変更する時は長崎の人たちが一番寄り付きやすい長崎駅側に建てるのが正解ではないかと思います。駅から見た北部エリアに人口が増えてきていますし。それに、「まちなか軸」側には中島川があり、過去の災害を教訓にすれば、そちら側に建てるのはおかしい話です。そういうことが、まかり通っています。それに対しておかしいと言っても何ら回答すらせず、決まったことだというふうに推し進めていってしまうのですよね。

久保:それは政治や行政のシステムの問題なんでしょうか?

中村:それもあると思います。でも、それをコントロールしなきゃいけないのが首長さんであったり、市議会議員ですよね。問題を指摘し、行政がそこをきちんと検討するというふうに機能しないといけませんが、そうなっていませんよね。

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ライター

久保 圭樹

フォトグラファー

久保 圭樹

Nagasaki365の発案・企画・設計、Webデザイン、写真撮影などを担当。普段は企業のWebサイトの企画・設計、デザイン、Webマーケティングのコンサルティングなどを仕事にしています。

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