中村享一

Talkin’ About Nagasaki ―ゲスト:中村 享一さん[建築物が生み出す町の結節点]

中村さんの目に、今の長崎はどのように映るのでしょうか。今の長崎が抱える問題などをお話しいただきました。

【目次】

05. 建築家の視点で見た長崎市が抱える問題

建築の経済的価値を評価できない弱み

久保:建築家の視点で見た時、今の長崎市の都市づくりってどのように感じますか?

中村:長崎市は今、都市を豊かにするための投資をやっているわけですが、建築が生み出す経済的価値を正しく評価できていませんね。

新しく建物を作ったとしても、メンテナンスしないと、あっという間に建築はダメになります。そこにかかるお金のことだって不明瞭、「MICEを作れば上手くいきます。経営は外部に出しているから赤字を補填する必要はありません。」とか言っている状態ですからね。

建物を維持するための経費だとか、生み出す経済的効果が十分に理解されていないなかで、財源はあるだとか、国から補助金をもらえるだとか、補助金を使うことが地域を豊かにする、みたいなわけの分からない論法でハコモノを作っているので、専門家としての視点が入らないと非常に危ういと思います。

建築は資産にもなりますが、大きな負債にもなります。今これを作ればいいですよという夢物語みたいなものを話しているだけで、正しく評価せずにあやふやな部分を残して進んでいくと、この街は本当に経営破綻します。それが怖いですね。

2016年、We Love Kokaidoイベントにて。ともに活動する仲間たちと。

久保:人口動態を見れば、確実に歳入は減りますからね。

中村:収入は下がってきます。明らかですよね。人口減少ということは収入が下がります。これははっきりしている。上げるとかいうけれど、上げるも何もMICEでどこからお金を生むのか。それは「波及効果」という説明しかしていませんからね。

「波及効果って、どこにあるんですか?駅前に作った施設だと駅まで来てパッと帰るのに、どこに波及効果があるんですか?」という状態で明示できません。

長崎のホテル業界がガタガタになってしまう可能性もありますよね。「いいブランドのホテルがないとMICEに人が来ない。だからMICEに隣接して高級ホテルを作る。」という話になっていますが、問題はこのホテルだって閑散期には安くなるんですよ。安売りすれば、今まちなかにあるホテルと競合関係になります。もしMICEによる集客がしっかりできずに、閑散期にこの高級ホテルが安売りするとなれば、その他のホテルは冷飯を食うようなことになってきます。競争になった場合は、泊まる人間は「安くてブランドのホテルがいいわ」となる可能性が大いにあるわけです。

私も世界の大きなコンベンション、海外で行われる建築家世界大会に10回以上参加していますが、長崎でその地の利が本当にあるのかという話ですよね。世界中を対象とした場合に、空港の問題がありますが、九州のなかでは福岡で止まってしまうような気がしますよね。MICEにはそういう不安要素があります。

2005年 UIAイスタンブール大会にて。日本建築家協会の委員として、世界大会には毎回ゆかたを持参し、日本への招致活動をした。

国内対象で考えた場合も、建築学会だとか建築家協会の委員として仕事をして思ったのは、こういった組織が全国大会をやろうとした時に、開催会場を決めるのはその主催者などの運営を地域がサポートするのか、経費等の経済支援を行うのか、その両方をするのかというメリットの比較になります。長崎市のMICEの運営委託先にはそのノウハウがあるといっていますが、大丈夫でしょうか。とても不安です。

大学が学会の拠点として運営準備を行い、キャンパスや地域の大きなホールを利用しながら開催される学会もあります。でもそれにしても長崎は医学部と経済学部、工学部の他に全国大会が開催可能な学部が他にあるのでしょうか。それでMICEの運営の主軸になれるのか不安です。展示系コンベンションは農産物系は良さそうですが、機械系などは地元企業が少ないので、これは相当困難だと思われます。

久保:なかなか大変そうですよね。

中村:なかなか大変だと思います。だから本当にここで大盤振る舞いをやって、進んでいくとしたときに、果たして長崎はどれだけの負債を抱えることになるのかが怖いですね。

市役所だってそうです。現在計画されている規模の市役所が、なんで長崎に必要なのかと思いますね。建設に要する資金だけじゃなくて、維持するお金がかかります。これも問題があるので、不安ですね。

阪神大震災報告。危険判定員として震災後の神戸に毎週末通った経験を報告した。

歴史的資源を丁寧に積み上げることが長崎の価値を高める

久保:今、長崎を建築家の視点で見ると、そういう点が気になる訳ですね。

中村:はい。もっと掘り起こさないといけない歴史的資源をしっかり見て、少しずつ積み上げていく方がよほど重要ではないかと思います。地道な作業で手間がかかると思いますが、それが重要です。訪れる人たちが、個性的で多様性のあるまちなかを歩くことができるための整備をする。そうすると、それがずっと残って歴史の厚みとなってきますよね。今、新しく作っている物は安普請で、すぐに償却していくのですよ。でも、歴史で残っているものを地道に積み上げていくと、長崎の価値は上がっていくのですよね。その差は本当に大きいと思います。

長崎の場合、歴史を守れば価値は上がるのですよ。手間がかかって短期的には利益を産まないと言いながらも、それは長い目で見ると厚みが増えて都市全体の底上げになります。そういうことをもっと大切にしないと、いけないのじゃないかと思います。

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ライター

久保 圭樹

フォトグラファー

久保 圭樹

Nagasaki365の発案・企画・設計、Webデザイン、写真撮影などを担当。普段は企業のWebサイトの企画・設計、デザイン、Webマーケティングのコンサルティングなどを仕事にしています。

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