2019年10月5日、複合図書館施設「ミライon」内に図書館とともにオープンするのが大村市歴史資料館。大村の歴史を伝え、郷土史の学習を支援する貴重な歴史資料の展示に加えて、大村の通史を紹介する常設展示室と、インタラクティブな体験で天正遣欧少年使節について学べる作品「南蛮屏風図 天正遣欧少年使節」が今回新たに登場します。オープンに先駆けて、先日メディアに公開されました。
「南蛮屏風図 天正遣欧少年使節」の制作を手掛けたのは、ウルトラテクノロジスト集団・チームラボ。大村ボートや長崎歴史文化博物館で開催された「学ぶ!未来の遊園地」や、大村公園内の玖島城跡を使ったインタラクティブなアート空間「チームラボ 大村の神社に浮遊する球体、呼応する城跡と森」、ハウステンボスに常設の「呼応する木々」、佐賀県武雄市の御船山楽園で開催中の展覧会「チームラボ かみさまがすまう森 ―earth music&ecology」など、数々の作品で、すでにチームラボの世界に触れたことがある方も多いでしょう。「南蛮屏風図 天正遣欧少年使節」では、大村の地にもゆかりの深い天正遣欧少年使節についてインタラクティブな体験をしながら学べます。どのような作品になっているのか、さっそく見てみましょう。
南蛮船が出入りし、多種多様な人々が行き交う安土桃山時代の港町をデジタルで体験
「南蛮屏風図 天正遣欧少年使節」が展示されているシアターに入ると、デジタルで描かれた巨大な南蛮屏風図が壁いっぱいに広がっています。左隻には16世紀後半の異国の港町で南蛮船が出航する様子、右隻には同じ頃である安土桃山時代の日本の港町に南蛮船が到着する様子が描かれています。港のそばでは多種多様な人々が行き交うこのような光景を、少年使節団も旅の途中で目にしたのだろうかと想像が膨らみます。手持ちのスマートフォンやタブレットを使って専用ページにアクセスしたら、少年使節団のメンバーであった伊東マンショ、千々石ミゲル、中浦ジュリアン、原マルチノの中から1人選んで、好きな服を選択。選んだ少年を作品の左隻または右隻に向かってスワイプして“投げ込む”と、その少年が作品世界の中に現れます。
作品世界の中で少年使節団の4人が揃うと、南蛮船に乗り込んで航海に乗り出して行ったり、あるいは少年使節団がヨーロッパから日本に持ち帰ったと言われている印刷機を使って印刷を始めたり、といったイベントが作品の中で起きます。イベントについての解説がスマホやタブレットの画面上に表示されるので、目の前の作品で起きたことをより詳しく知ることもできます。
さらに、シアターの壁に映し出された作品内の人物にタッチすると、その人物が反応して、あいさつや短いセリフをしゃべるというインタラクティブな仕掛けも。港町を歩いている大勢の人たちの中には、織田信長や豊臣秀吉、千利休、小西行長、ガリレオ・ガリレイ、フェリペ2世など、歴史上の人物もいます。また、スマホやタブレット画面で、少年使節団の訪問先についての情報や、各少年の経歴、歴史上の有名人に関する情報などを確認しながら楽しむこともできます。シアターに映し出される作品は、実際の長崎の季節の移ろいに合わせて日々変わっていくとのこと。ミライonを訪れる度に作品の変化を見つけるのも楽しみになりそうです。
今回、報道先行内覧会のために会場を訪れていたチームラボ代表の猪子寿之氏にお話を伺いました。
チームラボ代表 猪子寿之氏インタビュー
地方には歴史の積み重なりが色濃くあるからこそ、アートがコラボレーションする意義がある
今回は天正遣欧少年使節という歴史的題材の作品ですが、作品づくりで特に心がけたことはどのようなことでしょうか?
「南蛮屏風図 天正遣欧少年使節」には、安土桃山時代の南蛮船や歴史上の人物などが登場しますが、これらのことについて何か知ろうと思ったら、このミライonのような図書館があったり、インターネット上にもたくさん情報があって、いくらでも知ることができます。逆に言うとすごく大事なことは、「知りたい」と思うきっかけを作ること。これからは、そのきっかけ作りが教育になるのではないかと思います。知ると、面白いことや学ぶことがたくさんある。また、歴史上のエピソードは、現代においてどう生きるかという指針にもなると思うんです。今回の作品も「知るきっかけ」になることを意識して作りました。
ここ数年、長崎や佐賀での展示が増えているようですが、この地域の印象は?
御船山楽園で開催中の展覧会「チームラボ かみさまがすまう森」は、5年連続で行っているので、このエリアにはよく来ています。毎年どんどん展示作品が増えていて、2017年には、アート・デザイン・建築で世界最大のデジタルメディア『designboom(デザインブーム)』で「2017年のアートインスタレーション(TOP 10 art installations of 2017)」の世界1位にも選ばれました。有田焼にも縁があって、東京にあるMoonFlower Sagaya Ginzaというレストランでは、チームラボの作品空間の中でごはんを食べるというコンセプトで有田焼の器を取り入れています。お台場にある常設ミュージアム「チームラボボーダレス」のお茶を使った作品で使っているのは嬉野茶なんですよ。
『南蛮屏風』で描かれている港町のように、このエリアは海外からの入口だったわけですよね。貿易の地であり、海外との接点だった。有田焼も、朝鮮半島と近かったというのが大きかった。お茶もそうでしょう。朝鮮半島に近いこのエリアで茶畑ができて、お茶が飲まれていった。日本はいろんなもので海外から影響を受けたり、文化や文明をいただいて成長してきたんですよね。今自分達の文化だと思っているものも、元は海外からのものだったりするわけです。このエリアには、今でも陶磁器があったり、茶畑があったりという形でその面影が残っていますよね。
今後この長崎・佐賀エリアでやってみたいと思われることは何かありますか?また、インタラクティブなアートから見たローカルの価値をどのように感じているのかも教えて下さい。
御船山楽園の展覧会「かみさまがすまう森」はこれからもずっとやっていきたいと思っています。庭を造った鍋島茂義氏(第28代武雄領主、「佐賀の七賢人」と称される第10代佐賀藩主の鍋島直正に多大な影響を与えた人物)は、産業革命のきっかけを作った人。それが明治維新につながった。そういったことが可能だったのは、長崎に港があって、洋書をたくさん手に入れることができたから。鍋島氏はヨーロッパの科学技術を積極的に取り入れて、産業革命の基礎を作ったわけです。その人が造った庭が御船山楽園。そう考えるとすべてが関係しているんですよね。
都市はスクラップアンドビルドだから、そういった歴史を垣間見ることができません。でも地方にはまだ残っています。御船山は、庭園が造られたのは江戸後期(1845年)ですが、そのずっと前から地元では特別な場所だった。御船山には約1300年前に奈良の大仏を作った名僧・行基が岩肌に彫ったとされる五百羅漢も残っています。そういう歴史の積み重なりが、今でも色濃くありますよね。だからこそアートがコラボレーションする意義もあると思っています。例えば、このエリアの茶畑はおそらく一番古い形式の茶畑で、近代の効率を重視した茶畑とはちょっと違う。その姿かたちが今も残っていて、何百年も前の当時に思いを馳せることができる、そういうことにこそ価値があると思っています。
大村市歴史資料館(ミライon内)
住所
〒856-0831 長崎県大村市東本町481番地
駐車場
205台(施設利用者は無料)
開館時間
ミライon図書館/火~金 10:00~20:00、土日祝 10:00~18:00
大村市歴史資料館/火~日・祝 10:00~18:00
休館日
月曜日
蔵書/資料整理日(毎月末)
特別整理期間(10日間以内)
年末年始(12/28~1/5)
ミライon図書館ウェブサイト
Text: Yukie Ishibashi/Photo: Keiju Kubo