日本三大珍味と称される長崎のからすみ
長崎のからすみは、江戸時代より越前のうに、三河のこのわたと並んで日本三大珍味と言われています。全国各地豊富な海の幸に恵まれた日本で、なぜ長崎のからすみが日本三大珍味の一つに数えられる程の逸品と称されているのか。
長崎のからすみを深く知るために、老舗からすみ店「小野原本店」を訪ね、専務の小野原善一郎さんにお話を伺いました。
【目次】
からすみの歴史
小野原さん、からすみの歴史について教えて下さい。いつ頃から日本で作られるようになったのでしょうか?
小野原:からすみは、魚の卵巣を塩漬けして乾燥させたものです。その歴史は古く、発祥は紀元前古代ギリシャやエジプトなど地中海沿岸部と言われていて、冷蔵技術がなかった当時、生の食品を長期保存する方法として塩漬け・天日干しが考えだされたようです。その後、安土桃山時代に長崎にも伝わり、舶来品だったからすみが日本でも造られるようになったのは江戸時代に入ってから。長崎南部の野母崎周辺で質の良いボラが水揚げされることに目をつけ、そのボラの卵巣を用いて作ったことが日本におけるからすみの発祥とされています。
長崎が日本におけるからすみづくりの発祥地なんですね。
小野原:そうです。長崎ではからすみをボラの卵巣から作ります。今でこそからすみの原料はボラの卵巣が主流ですが、 ボラ以外でからすみを作る地域もあります。例えば香川県ではサワラを使ったものが主流ですし、イタリアではマグロの卵巣を使ったからすみが多く流通しています。当初のからすみも、ボラではなくサワラの卵巣を用いたものと言われています。
ちなみに、中国の墨『唐墨』に似ていることから『からすみ』と言われるようになったようです。当時のからすみはもっと色が黒っぽくて形も墨に似ていたみたいですね。台湾ではオーヒージー(烏魚子)、イタリアではボッタルガ(Bottarga)という名前で呼ばれています。
からすみの作り方 ―味の決め手は塩加減と干し加減
からすみの製造方法について教えてください。ボラの卵巣以外に何を使うのでしょうか?
小野原:原料はボラの卵巣と塩だけです。ほかの地域では日本酒や焼酎を使うところもありますが、長崎からすみは他のものを一切使いません。それだけに原料選びには注意を払います。当社の場合、ボラの卵巣は長崎産はもちろん、水質のよいオーストラリア産を使用しています。また、塩もオーストラリア産天日塩にこだわって使用しています。
からすみの製造工程ですが、まずはボラの卵巣の血や筋を綺麗に取り除き、血抜きを行います。この工程を丁寧に行うことでボラ独特の臭みが無くなり美味しいからすみができます。血抜きが終わったら今度は塩漬けを行います。出てきた水分を毎日取り除きながら、個体差にもよりますが一週間ほど塩漬けします。
塩漬けの後は、からすみの出来を大きく左右する塩抜きの工程です。2〜3時間おきに水を変えながら一日かけて塩抜きし、その後一週間ほど水に漬け込みます。
この時点ではまだ、からすみ独特の飴色ではないんですね。
小野原:この後の乾燥の作業で少しずつ飴色に変わります。日中は風通しの良い太陽の元で天日干しを行い、夕方は室内に取り込んで寝かせます。機械乾燥も可能ですが、やっぱり天日干しの方が美味しく仕上がるんですよ。3週間〜1ヶ月かけて様子を見ながら乾燥させて行きます。最終的な仕上がりは目で見て手で触って判断しています。
ちなみにからすみの質はどのように判断されるのでしょうか?品質が高いからすみを見分ける方法があれば教えてください。
一般的に飴色のものがよいとされていますが、色で品質はそこまで変わりません。大きい方が油の含有量が多いため美味しいとは言われています。日本酒や焼酎を使用するとからすみ本来の味を損ねるとの考えから『長崎からすみ』では使用しておりません。素材そのままを味わっていただけるかと思います。また、塩加減や干し加減は各社違いますので好みにあったものを探していただくとよいかと思います。当店のからすみは塩味は比較的抑えながら、きっちり干しているのが特徴です。
小野原本店の取り組み ―歴史ある長崎のからすみを家庭の食卓にも広げたい
からすみは高級食材だと思いますが、製造に手間と時間がかかるのがその原因なのでしょうか?
小野原:高価な理由は、かかる手間や時間に加えて取れるボラの量が少なく希少価値が高いからなんです。ただ、やっぱりボラで作ったからすみは他のものと比べると格段に味も質も良いんですよ。長崎のからすみは豊臣秀吉や、長崎奉行を通じて宮中及び将軍家の御用品として献上されていて、小野原本店のからすみも、皇室ご成婚の際にご利用いただいたことがあります。
長崎のからすみには、それだけの価値があるということなんですね。
小野原:はい。ただし、からすみは高価なために流通量が少なく、馴染みが薄いですよね。長崎においても間違いなく特産品ではありますが、認知度が高いかと言われればちゃんぽんやカステラなどと比べると残念ながらまだまだだと感じています。そういう意味で、いかにからすみを食卓に広げていくのかが今後の課題です。当店ではスライスして個包装にしたり、からすみパスタオイル、からすみ茶漬けなどの手にとっていただきやすい商品づくりを進めています。
からすみオイル漬けもそうですよね。
小野原:からすみに慣れ親しんでいない方は、からすみの食べ方ってそのまま切って食べるか、おろし器でおろしてパスタに和えるかくらいしか浮かばないですよね。からすみオイル漬けは、オイルにもからすみの風味が溶け込んでいるので、クラッカーに付けて食べたり、サラダにかけても美味しく食べることができます。食べ方や食べるシーン、シチュエーションの提案も必要だと考えています。
からすみの新しいマーケット作りを積極的に行っていらっしゃるんですね。
小野原:はい。当店だけでなく、長崎のからすみをもっと盛り上げて行きたいと思っています。2018年には、長崎市内のからすみ製造業者7社で『長崎からすみの会』を設立し、からすみの消費拡大、知名度向上を目指して取り組んでいます。『長崎からすみ』は味や品質はもちろんのこと、歴史も古く価値がある食品です。より多くの人に『長崎からすみ』を味わって頂いて、次の世代にも残していきたいです。『長崎といえばカステラ』と同じくらい、『長崎といえばからすみ』『からすみといえば長崎』のイメージを定着させたいですね。
小野原さんに聞いたおすすめのからすみレシピ
長崎からすみを家庭の食卓でも気軽に味わえる小野原本店オリジナルレシピを、小野原さんに教えていただきました。
菜の花のからすみ辛子酢みそ和え
材料(2人前)
- からすみそぼろ・・・小さじ2
- 菜の花・・・90g
- 白味噌・・・15g
- 砂糖・・・大さじ1
- 酢・・・小さじ1
- マヨネーズ・・・5g
- からし(チューブ)・・・4cm程度
作り方
- 菜の花は茹でて、しっかりと水気を切ってから5cm程度の長さに切っておく
- ボウルに白味噌、砂糖、酢、マヨネーズ、からしを入れて混ぜておく
- 2のボウルに菜の花を入れてよく混ぜ合わせ器にのり、からすみそぼろを覆うようにかければ出来上がり
菜の花独特のほろ苦い味が苦手な方でも、酢みそで和えることで苦味が軽減されるので美味しくいただけます。酢みその甘みの中に、ほんのりと効いたからすみの塩気がやみつきになる一品です。
山芋のからすみしぐれ和え
材料
- からすみしぐれ・・・10g
- 山芋・・・140g
- 昆布茶・・・小さじ1/4
- 薄口醤油・・・小さじ1
- 小ねぎ・・・適宜
作り方
- 山芋は3cm長さの1〜2mmの細切りにし、小ねぎは小口切りにしておく
- ボウルにからすみしぐれ、昆布茶、薄口醤油を入れて混ぜておく
- 2のボウルに山芋を入れてよく混ぜ、出来上がり
山芋のシャキシャキとした食感と、からすみしぐれのつぶつぶとした食感が絶妙なバランス。お酒がすすむこと間違いなしの一品です。
春キャベツのからすみサラダ
材料
- からすみ・・・15g
- 春キャベツ・・・1/4切
- 塩・・・小さじ½
- ☆レモン汁・・・小さじ1/4
- ☆マヨネーズ・・・小さじ1
- ☆オリーブオイル・・・大さじ1
- ☆白コショウ・・・少々
作り方
- からすみは2mm厚さにスライスし、さらに細切りにしておく。キャベツは5mm程度の細切りにする
- キャベツはさっと水で洗い、塩をふってよく揉み、5分程度置いてしっかりと水を切る
- ボウルに☆の材料を入れて混ぜておき、キャベツとからすみを入れてよく混ぜれば出来上がり
春キャベツの緑色とからすみの橙色で見た目も華やかな一品。そのままサラダとしてはもちろん、トーストしたパンに薄くバターを塗り、サラダを挟んでサンドイッチにしても美味しく頂けます。
小野原本店
長崎県長崎市築町3-23
TEL:095-824-0261
Webサイト:https://onohara.co.jp/
オンラインショップ:https://shop.onohara.co.jp/
Text: Hiroko Kishikawa/Photo: 小野原本店提供、Keiju Kubo(*1,2)