文房具との新しい出会いを演出する場所を目指して ― 石丸文行堂 常務取締役 石丸忠直 インタビュー

地域の商店は今やインターネットの影響もあり、とても厳しい経営環境に置かれているというのは多くの人が感じるところだろう。Eコマースの市場は未だに右肩上がりで、次々に新しいベンチャーやオンラインでのビジネスモデルが生まれている。

大学を卒業し日本最大手の情報システム会社に約10年間勤務した石丸忠直はまさしくそういう時代を最も理解している一人だろう。

ただし、彼が最終的に自分が働く場所として選んだのは、長崎の老舗文房具店である家業の『石丸文行堂』だ。

帰郷

少年時代の石丸は地域の人がだれでも知っている名前が息苦しく、長崎を離れたいと常々思っていたと言う。実際、長崎を離れ、東京での大学生活を謳歌したし、卒業後に勤めた大手情報システム会社では、プロジェクトマネージャーとして数百億円が動く現場の最前線で仲間とともに目標に向かって働いていた。まさしく充実した毎日だった。

そんな石丸も30歳を超えたころから、「そろそろ長崎に戻ったほうがいいのではないだろうか?」という思いが芽生え始めた。父親が60歳を超え、家業を継ぐことを決心した石丸は、日本一と名高い老舗文房具店の銀座伊東屋で2年半の修業を経て、長崎へ帰ることになる。

石丸に2012年5月に長崎に帰ってきてからの2年間のことを尋ねると意外な言葉が返ってきた。

「『あっという間の2年間』という感覚ではなくて、むしろ長く感じた2年間でした。今から振り返るとたくさんの新しいプロジェクトをやって、組織がいい方向に変化していく実感を持てたことがその原因かもしれないですね。」

「入社直後から、基幹業務システムを構築・導入するためのプロジェクトを編成しながらも、同時並行でウェブサイトのリニューアルとFacebookページの立ち上げに手を付けました。老舗のブランドがあるとはいえ、情報発信の方法については大きく変える必要があると思っていたんです。」

気付きと出会いの朝活『文房具マルシェ』

石丸が取り組んだ新しい情報発信、マーケティング・コミュニケーションの方法としてユニークなものに、主に早朝に開催してきた朝活『文房具マルシェ』がある。 文房具を愛する人たちがテーマに沿って愛用するモノを持ち寄り語り合う文房具マルシェを彼は『気付きと出会いの朝活』と呼び、2年間で30回以上開催してきた。

文房具マルシェ/文房具メーカーからゲストを迎えて開催されることも。

「例えば、手帳をテーマにした場合、『こんな手帳があったのか!』ということを自分以外の参加者の数だけ知れるし、もし仮に同じ手帳だったとしても『そんな使い方があったの?』という発見がある。そういうのは顔を合わせることで生まれますよね。そういう気付きと接点を店舗を舞台として作っていきたいと思っています。」

2012年10月から始めた文房具マルシェは好評で、メディアにも20回近く取り上げられた。

「ありがたいことに石丸文行堂の名前は地域の人たちに浸透しています。ですが『いつ行きましたか?』と尋ねると『そういえばしばらく行ってないね。』という人がほとんどです。ですので『石丸文行堂って最近変わり始めているらしいよ。』『今度、ちょっと寄ってみようか。』と感じて頂けるようなことがとても大切だと思っています。そういう意味でメディアの方たちにこの新しい取り組みを取り上げていただいたことは本当にありがたかったですね。」

スタッフの力による2つのグランプリ受賞

第5回 L-1グランプリ ツイストリング・ノート店頭陳列コンテストで、グランプリを獲得した夢彩都店のディスプレイ

コミュニケーションを確実に変革している石丸文行堂の象徴的な出来事がある。今年、石丸文行堂夢彩都店が、九州の文房具販売店が参加した三菱鉛筆ジェットストリームの店頭ディスプレイコンテストで優勝。続けてLIHIT LAB.が主催する「第5回 L-1グランプリ ツイストリング・ノート店頭陳列コンテスト」でもグランプリを獲得したのだ。後者については海外を含めて約600店舗の中の頂点である。

「現場のスタッフが自分たちで『お客様にどのようにしたら商品の価値を伝えられるのか。』ということを考え、行動できるようになってきました。スタッフが自発的に企画した店内イベントも増えています。僕にとってスタッフの成長は何よりも嬉しく頼もしいことです。」

石丸文行堂の存在意義とは

文房具がインターネットでも100均でも買える時代に、石丸文行堂の存在意義を石丸はどのように考えているのだろうか?

来店者にワクワクして欲しいという想いから、デザイン性の高い商品なども積極的に扱うようになった。

「石丸文行堂は文房具専門店を名乗り続けようと思っています。実際に文房具はインターネットでも100均でも買える。そんな中でユニークな価値を作り続けるには『物の価値をしっかり伝えられる』ということに行き着きます。それはある意味原点に帰るということでもありますよね。」

「人々に『ここに石丸文行堂があってよかった。』と思ってもらえるように、スタッフがお迎えして質問に対しては的確に答え、困っていることには提案ができるようにしたい。どこの店にもモノはある。だけどそれだけではそれをどう使えばいいのかというのは伝わってこないですよね。そこを伝えられるのが文房具専門店だと思います。これからもイベント、ディスプレイ、インターネットなどを活用して文房具にいろいろな世界があることをより分かりやすく伝えていきます。『石丸文行堂に行けば、何かある』というふうに思ってもらいたいし、その期待に応えていけるように進化していきます。」

インターネットで目的のものを探し出し購入する場合、そこに偶然の出会いは起こりにくい。店舗が持つ魅力は、隣の棚や見渡した先で、思わぬものに出会うことができることだ。そして、それをもっと的確にもてなしの心を持ってガイドできるスタッフを育てていこうと石丸は奮闘している。

子どもから大人まで、その人の人生を豊かにしたり、希望を与えるモノとの出会いはインターネットの中ではなく石丸文行堂のような店舗にこそ詰まっているのかもしれない。

■石丸文行堂ウェブサイト
http://www.ishimaru-bun.co.jp/
■石丸文行堂Facebookページ
https://www.facebook.com/bunkoudou

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ライター

久保 圭樹

ネットビジネスエージェント

久保 圭樹

Nagasaki365の企画・設計、Webデザイン、写真撮影などを担当。普段は企業のWebサイトの企画・設計、Web広告運用やWebマーケティングのコンサルティングなどを仕事にしています。

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