米どころとしても有名な諫早平野が広がる街・諫早。美味しいお米を使ったおこしづくりで杉谷本舗が創業したのは、江戸後期の1811年(文化8年)。今や200年以上の歴史を誇る、長崎県下でも有数の老舗菓子店です。伝統の味を守りつつ、カステラ、おこし、どら焼き、ロールケーキ、フルーツゼリーと和洋さまざまなお菓子を作り続けています。
江戸文化8年(1811年)創業。長崎県諫早市の老舗菓子店。
社訓に「真心」を掲げ、カステラ、おこし、どら焼きなどこだわりの和菓子・洋菓子を作り続けている。
ウェブサイト:https://sugitanihonpo.co.jp/
ネットショップ:https://shop.sugitanihonpo.co.jp/
【目次】
「長崎カステラ」伝統の技を受け継ぐ、杉谷本舗のカステラ
長崎には江戸時代からカステラを作り続けている老舗が何軒もありますが、杉谷本舗でカステラ作りが始まったのは比較的新しく、第7代目店主・杉谷徳隆さんによると昭和40年代のこと。しかし杉谷本舗のカステラは、老舗の味に一歩も引けを取りません。それもそのはず、杉谷本舗では伝統的な製法を知るカステラ職人から受け継いだ作り方がしっかり守られています。ちなみに「長崎カステラ」と称することができるのは、地元の業界団体によって定期的に実施される審査会で厳しい審査基準をクリアしたカステラだけ。「長崎カステラ」を堂々と名乗れるということは、杉谷本舗のカステラの美味しさの証でもあります。
杉谷本舗のカステラバリエーション
スタンダードな「長崎カステラ紀行」は全部で6種類。蜂蜜、抹茶、チョコレート、ざぼん、チーズ、青梅があります。また、JR九州とのコラボレーションで、JR九州ファーム産のたまごを使用した特選カステラ「たまごのこころ」、プレミアムラインナップの「五三焼カステラ」と「プレミアム・ショコラ」はワンランク上の美味しさが味わえます。五三焼カステラは3年連続、プレミアムショコラは2年連続モンドセレクション金賞を受賞しています。
杉谷本舗のカステラができるまで
工場長の木村孝文さんに案内して頂いて、カステラ製造の現場へ。カステラの材料はとてもシンプルで、基本的には「たまご」「砂糖」「小麦粉」「水飴」だけ。たった4つの材料をそれぞれどのぐらい使い、どのように混ぜ合わせ、どのように焼き上げていくか ―― カステラ職人の腕の見せどころです。
カステラに使用されるたまごと泡立て法
カステラにまず欠かせないのがたまご。杉谷本舗では、たまご選びにももちろんこだわっています。「長崎カステラ紀行」シリーズには地元産の新鮮なたまごを、「五三焼カステラ」には卵黄がより濃厚な島原の「口笑(こうしょう)たまご」や長崎県特産の「枇杷たまご」が使用されています。
たまごの泡立て法も2種類、卵黄と卵白を一緒に泡立てる「共立て法」と、それぞれ分けて泡立てる「別立て法」をカステラの種類によって使い分けています。生地作りはカステラ作りで最も重要な工程。特に、卵黄と卵白を5:3の割合にすることが名前の由来ともいわれる「五三焼カステラ」の生地作りでは、卵黄の割合が多く卵白の割合が少ないので、難しく手間はかかりますが「別立て法」で行っています。
たまごと上白糖、水あめをしっかり泡立てたら、小麦粉を合わせて撹拌し、生地を作ります。温度や湿度によって生地の状態は変わるため、職人さんは毎回温度をしっかりチェックしながら作業します。重曹やベーキングパウダーといったいわゆるふくらし粉は一切使用しないため、撹拌した後の生地の中にどれだけ空気を含ませることができるかが勝負。撹拌が終わったら生地を少し落ち着かせ、ザラメを敷いた木枠の型に生地を流し入れて、長いトンネル状のオーブン窯での焼成に入ります。
カステラのしっとり感ときめ細やかさは泡きりの技術から
生地が流し込まれた木枠が窯の中に入って少し経つと、職人さんが一旦木枠ごと窯の外に取り出し、長いへらを使って素早く生地をかき混ぜる「泡切り」を行います。1回目の泡切りでは浮き方が均一になるように、木枠の底から全体的にかき混ぜ生地温度を全体的に上げます。2回目の泡切りでは上から半分程度だけ、生地の中の泡を潰すようにかき混ぜます。この2回の泡切りを行うことが、しっとりときめ細かなカステラに焼き上げるための重要なポイント。泡切りを行う時は、職人さんの表情も一段と引き締まります。2回目の泡切りが終わると上枠がはめられ、窯の中でじっくりと焼き上げられていきます。
カステラ焼き上がりと品質チェック
長い窯のトンネルの出口側に回ってみると、焼き上がったカステラが取り出されていました。表面にはきれいな焼き色がムラなく付いていて、見るからにふんわりとした仕上がり。生地の高さが均一で、上枠の縁の近くまで達していることから、焼成されていく中で生地がしっかりよくふくらんだことが分かります。職人さんが仕上がり具合を目で見て確認すると、上下を2回ひっくり返し、さらにショックを与え、生地の中の余分な蒸気を抜きます。
焼き上がったばかりのカステラは驚くほどやわらかくて、職人さんが板ごと持ち上げると表面がフワンフワンと大きく揺れます。そのまま一日置いて熟成させ、全体が適度に落ち着いてくると、しっとりとしたおなじみのカステラに仕上がります。カステラは各商品のサイズごとに適宜切り分けられ、箱に入れられていきます。混入物が無いかを金属探知機でチェックした上で、最後は職人さんが目で見て厳しくチェック。合格したものだけが包装されて商品として出荷されます。
カステラ好きには、ザラメのジャリジャリとした食感を楽しみにしている人も多いものですが、工場長の木村孝文さんいわく「カステラにザラメがしみ込んだ状態が本当の味」とのこと。カステラは底にザラメがないと、という方はぜひ一度、ザラメが溶け込んだカステラも味わってみてください。その際にはもちろん、杉谷本舗のカステラでお試しを。
Text: Yukie Ishibashi/Photo: Keiju Kubo、杉谷本舗提供(*1,2,3)